真夏 de お元気vv (笑)
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 

毎年恒例の言い回しかもしれないが、この夏もまた途轍もない酷暑の夏で。
台風がらみの豪雨が続いたせいで、
梅雨の終わりがなかなか見えなかったのが嘘のように、
晴れがやってくると同時というノリで、
それはもうもう暑い暑い夏が始まって。
近場の公園の噴水へ、特撮ヒーローのイラスト付きランニングや短パン、
はたまた涼しげなサンドレスのまま えいやと飛び込めるお子様たちはいいけれど。
どっか連れてってとねだられる側の大人たちは

 「たまったもんじゃあないでしょうね。」
 「……。(頷、頷)」
 「ちょっとお気の毒かな。」

 何せ回復力が違うし。

 大人は夏休みとかないまま、
 春からこっちと同じ毎日を継続中なんだしね。

 ……。(そうそう。)

「知ってます?
 夏の過ごし方のアンケで毎年同じ答えが一位らしくて。」
「??」
「なになに?」

お隣からこっちを覗き込んでくる、麗しの金髪娘二人へと、
ふふ〜んと笑ったひなげしさん、
つばの短いカンカン帽をちょいとつまんで おもむろに口にしたのが、

 「何処へも行かず、家でのんびり過ごす、なんですって。」

大人になると判ること。
何でまた、この暑い中 わざわざ人ごみに突進せにゃならぬ。
人の集まるだろうイベントやアトラクションへ、
義務でもないのに我も我もと運ぶ奴の気がしれぬと、
ついつい正論ぶって言いたくもなるものだが、

 「気持ちは判るけど、子供はそうはいかないよねぇ。」
 「……。(頷、頷)」
 「子供だけでは
  遊園地や大きなプールになんて出かけられないですものね。」

子供だけじゃない、十代級の若いのだって、
話題のスポットとやらへは、
トレンドに乗り遅れたかないからとついつい足を運ぶもの。
強烈な日差しに眩しいくらい照らし出された白い舗道には、
南欧風のカフェを気取ってか、ドンゴロスの幌が落す陰が差し…ているはずなのだが、
そんなカフェテリアの縁すれすれまで、中通りの人並みは大した密度で迫っており。
自分たちにとってはいつもの遊び場、
馴染みのショッピングモールなのにね。
夏のバーゲンも落ち着いたはずなのになんだこの人出は、海へ行け海へと。
高校総体から戻って来たばかりな七郎次を交え、
リゾート先で着るあれこれを観に出て来た3人娘たちも
人の多さにはやや辟易気味。

 「私たち、やっぱりどこかでおじさんなんでしょうかねぇ。」
 「やだ、何言い出すかな、ヘイさんたら。」
 「だって…。」

涼しい高原や潮騒の音がドキドキする海辺に出かけるのはわくわくするけど、
その前の準備でこの雑踏を目にすると、

 「途端に萎えてるようではねぇ。」
 「う、う〜ん。」
 「……。」

今日のお目当てのブティックは、一番込み合う通りの奥向き。
とっとと突進しなければ、
この夏のコーデなんてあっという間に品薄となるのは必至だというに、
いや別に流行なんて気にしてないし、とか、
私はミュールを見に来ただけで、とか、
ややもすると悪あがきにしか聞こえぬような言い訳を並べ、
ついさっきまでスタンドバーで涼んでばかりいたのであって。
思い出したばかりの過去の記憶の中、彼女らは腕に自慢のもののふだったが、
それらの余波とやら、物事に達観しているだけに収まらず、
こういうところでおじさん臭い思考が働くようではねぇなんて。
彼女には珍しいセミタイトスカートに合わせた オフショルダーのボーダートップスから覗く、
丸くて愛らしい肩をひょこりとすくませて苦笑したのが平八ならば。
マリン調のボーダーのトップスは若めだが、
ハイウエストのタイトな黒スカートはちょっと大人っぽい、
そんな装いをしながらも、品のいい口許をやや尖らせたのが七郎次。
その向こうで、それも今年の流行、
フリルが胸元を覆う格好でアクセントになったタンクトップに、
こちらも短いのはお珍しい、
シャーリングの利いたウエストに涼しげな生地のショートパンツといういでたちの、
ヒサコ様、こと、久蔵さんだったりという、
明るい髪色はいまどき特に珍しくもなかろうが、
それが蓮っ葉に見えぬほど、それぞれに鮮烈な存在感があるお嬢様たちは、
今日も今日とて周囲からそれとなくの注目を浴びてもいて。

 「スタイルいいなぁ。」
 「背中、細っそい。」
 「ウエストからヒップへの側線ラインがするんとしてて。」
 「カラコンなのかな、あの青い目。」
 「どうだろ。髪の色がああだし、ねえ。」
 「あの金髪は地毛でしょ? 地毛。」
 「うん、ブリーチだとああまでしっとりにはならないものね。」

男の子のみならず、同じ年頃の女子までが、…
確かに綺麗だけれど でも…という格好で難癖が続かぬ純粋さ、
羨ましい風貌だと視線をそそいでくるというに、

 「シチさんがデートの時に限って大胆な格好をするのって、
  もしかして 暑いのに強い勘兵衛さんへの意趣返しみたいなもんですか?」
 「な。///」

何でそんな、いやその前に、何でそうそうどういう恰好かまで知ってるんですよ、
だって佐伯さんが、俺も結婚屋に聞いた、あんのお人らはもうっ…と、
ご当人たちはというと、
あんまり華やいではないよな話で盛り上がって(?)いたりするのだが。
街路樹の落とす木陰でしばしの小休止をとりながら、
怖いもの知らずなことへの相殺か、
唯一 暑さに弱い久蔵を時に庇いつつ。
それでも何とか、お目当ての店を何軒か回り。
今年は海とそれから、三木さんちの高原の山荘にも行く予定なのでと、
ボレロ付きの夜会服風、ちょっとだけ背伸びした感のある装いを見繕ってのさて。
おしゃれな街並みへ、
今度は帰途に着くためにと踏み出しかかった三華様がただったのだが、

 「…え?」
 「なになに。」
 「やだ、勝手に何撮ってんのよ、あんたっ。」
 「盗撮?」

ざわざわざわっと、雑踏のどこかで不審げに誰何するよな声が上がり、
そんな声に追われたかのよに、誰ぞが駆け出したらしい気配がはじける。
強引に押しのけられてか痛いと叫ぶ声、何するのよと怒って上がった際立った声などなどが、
すすすっと前へ前へ移動してゆくのが、
不審な輩の移動コースをそのまま伝えてもいて。

 「お嬢様がた、危ないですから店内へ…。」

顔馴染みということでどんなお家のお嬢様たちかも重々承知の店員さんが、
巻き込まれないよう中へと気づかいの声を掛けてくださったれど、

 「…ちっ。」

買ったばかりのあれこれの入った紙袋を足もとへと置きはしたが、
人が密集しているのが邪魔だという方向で
忌々しげに舌打ちしているお嬢様がいるほどだから困ったもの。
そんな紅バラさんへ、

 「これを。」

普段彼女が使っている特殊警棒よりもやや長く、
かと言って七郎次の使う槍タイプの伸縮棒より幾分かごつい感触の、
すりこ木みたいな金属の棒を手渡したのがひなげしさんなら。
相手への信頼はいかほどか、受け取りながら うんと深々頷いた三木さんチのお嬢様。
足首とヘッド部のベルトを結ぶ、チェーンを添わせたベルトが可愛い、
ヒールは低めのファッションサンダルの足元なのを、
ダンと強く踏み出したそのまま 駆け出した通りの先。
すぐにも分厚い人ごみに遮られたその先へ、一体どうやって向かうのかと思いきや、

 「…っ。」

ぶんっと大きく腕を振り、その遠心力で振り出したのが伸縮棒のスライド部分で。
七郎次が操る槍と違い、しなりより頑丈さを優先されてる代物ならしく。
ある程度伸びて竿のようになった途端、ロックがかかった音がしたのを確かめてから、
それを杖にした痩躯ごと中空へ えいやっと、
棒高跳びよろしく高々と駆け上がった紅バラさんだったりしたものだから。

 「うわぁ、空中戦はもはや万能だね、久蔵殿。」

バレエの賜物かバランス感覚も抜群だしね、と
物騒なブツを手渡した平八が暢気な言いようをした横で、

 「とはいえ、あれじゃあ飛距離が足りないんじゃあ。」

額へ小手で庇を作って、遠くを見やった七郎次が案じたが。
それが聞こえでもしたものか、ご案じめさるなというタイミングで
竿が伸び切った先から なんと横手へ身を振った久蔵さん。
その先にあった雑貨屋さんのビルの壁へ 蹴るというより着地して、
そのまま何歩か駆けて駆けてしてから、
より先へといち早く、その身をすとんと飛び下ろさせる。
時間にしてほんの瞬き2回ほどという素早さで、
見事に雑踏を飛び越してしまった鮮やかな大技は見事なものであり。
突然 頭上をよぎった何かの影へ 視線をやったそのまんま、
そんなアクロバティックな展開へと見惚れた人々が
無意識に足を止めたせいもあり、
いけない所業を見咎められて逃げ出した盗撮犯だけが状況から置いてかれ、
その姿をひょこり 群集の中から飛び出させてしまう運びとなったを幸い、

 「天誅っ!」
 「うわぁあっ!」

先回りしての迎え撃つ格好、
鼻の頭にすれすれで当たりそうだった鋭い回し蹴りを
容赦なくお見舞いする先手必勝は相変わらず。
そりゃあ綺麗なお嬢さんからなのが せめてもの何とやら、
そんなお仕置きをされてもしょうがないと
疚しさを意識しているならそのまましおしおと怯むところだが、

 「な、何すんだよ、危ねぇなぁ。」

いきなりの暴行だと言わんばかりの口調で非難する輩なのへは、
後から追いついた平八がまずは呆れて、

 「何をもどうも、あなたそのスマホで盗撮したんでしょ?
  向こうにいたビスチェ姿のグラマーな女子大生。」

 「…っ!」

図星だったか一瞬怯んだ、まだニキビ顔の高校生風。
だがだが、場数は踏んでいたものか、
そのまま愛機を放り投げようとしたその手、
後ろからがっしと引っ掴んだのが七郎次。
意外な力強さへぎょっとして
肩越しに振り向いてきた相手からの視線を見据え、

 「証拠隠滅?
  どうせそこいらの防犯カメラに
  そりゃあたくさんあなたが映っていようから、
  状況証拠どまりではあれファイルが何冊も作れるわよ?」

即物的な対処も無駄無駄と、
涼しい水色の目許を眇め、冴えた表情でメッと叱って差し上げれば、

 「う…。」

道理よりも相手の冷静さと、お見事なまでの畳みかけに気圧されたのだろう。
二の句が継げなくなったまま、ダメージジーンズの膝を折り、
結構な熱さのアスファルトの上へその身を頽れ落としてしまう。
あらまあ、案外と諦めがいいなぁなんて感心しておれば、

 「…お嬢さんたち。この暑いのに出張ですか。」

人垣の一角から聞き覚えのあるお声がして、
この暑いのにクールビズも許されないのか、
スーツにワイシャツ、ネクタイといういでたちの男性が
しょっぱそうなお顔のまま出てきたりしたものだから。

 「あらやだ、征樹様。」
 「生活安全課へ出張ですか?」

お馴染みさんの登場へこちらも動じず、にっこり笑ってご挨拶するお嬢様たちで。

 “まあそれは今更ですがね。”

別な案件での外回り中だった佐伯さん、かっこ警視庁捜査一課所属かっこ閉じ。
何へか視線が釘づけになっているお嬢さんたちなのを
視線の中に捉えちゃったものだから、
これを捨て置いたらどうなるかと

 “そういう思考になってることが、幸いなんだかどうなんだか。”

大事にならぬよういち早いフォローをと、
テキパキ動ける自分の周到さこそが恨めしい。
平八が口にした、所轄の生活安全課へと出動要請しがてら、
容疑者への直接の身柄確保は自分が手掛けた方が角も立つまいと、
こうしてお声を掛けたわけだが、

 「シチちゃん、勘兵衛様にも報告するからね。」
 「う…。」

告げ口ですかと上目遣いで睨まれちゃったが、
何を言うかな、これは大人の義務だよと、
躱すくらいのスキルは十分。
あとのお嬢さんたちも、
そのくらいは致し方なしという分別くらいはあるようで。
ここで初めて叱られちゃったというお顔をするから
可愛いものだ…ろうか、果たして。(う〜ん)

 「…あ。こっちです。」

何か事件らしいとの野次馬だろう、
新たに集まりつつある通行人らの作り出す人垣を掻き分け掻き分け。
やっとという感で駆けつけた所轄の方々へ、
確保された盗撮犯くんを佐伯さんが引き渡しておれば、

「ばいよぴんくだ」
「そだな」
「かっくいい♪」

先程の荒事、たまたま居合わせて目撃したらしい小さな坊やたちが、
それこそ純粋な好奇心からだろう、いつの間にやら近づいて来ており。
あれほどの荒事をご披露しておきながら、
綿毛のように軽やかな金の髪を掻き上げ、クールな態度を保っておいでの紅バラさんへ、
恐れもなく間近まで寄ってくると、足元から見上げつつそんな感慨を口にするものだから。

「…何の話です? あれ。」

話が見えないらしい征樹さんへは、
肩を竦めつつ七郎次が苦笑を見せる。

「テレビの戦隊もの、
 特撮ヒーローみたいだったって言いたいんでしょうよ。」

女だてらに見事な格闘技を披露するところが同じだったと、
憧れ半分、かっくいかったぞと寄って来たらしかったのだが、

「俺はどっちかというとレッドだ。」
「えー?」
「レッドはケンタだぞ。」
「そだぞ、男だぞ。」

女子の人はピンクが相場だということか、
戦隊ものファンでもあるらしいおちびさんたち相手に、
上体を折って視線を何とか合わせてやりながらも 引かないご意見を繰り出すお友達なのへ、

「久蔵殿、話が見えにくいぞ。」

そちらさんもそういう背景が掴めていればこそ、口を挟んだ平八へは、

「こっちのねえちゃんは いえろーだ。」

同じおちびさんたちが、不躾にも指差しながら言い立てる。
最近の戦隊ものは“紅一点”ではないそうで。
女子は二人で、ピンクと イエローかグリーン辺りを割り振られるとか。
そう来ましたかと
一瞬怯んだように おおうと身を反らしかかったひなげしさんだったが、

「失礼な、私はハカセですよ。
 この“ハイジャンプバー”を発明して、作り出したのも私ですからね。」

エッヘンと、豊かな胸を張ったりし。

「こーみょーじハカセはおっさんだぞ。」
「あらでも、
 あの シバさんが声を当ててるなら オネエかもしれないでしょ?」

ヘイさんヘイさん、アタシにも話が見えないぞそれ…と。
女子高生には結構な一大事を畳んだばかりとは思えない、
余計な脱線まで仕掛るお嬢様たちの夏は、
まだまだ終わりは見えない 真っ只中というところであるらしく。
油を染ませた色紙みたいな濃い青空が、
頑張れがんばれ大人たちと、
どこか無責任な笑顔を振りまいてた、猛暑の午後だったそうでございます。




  〜Fine〜  15.08.05.


 *お転婆戦隊ムテキングくらいのネーミングを
  してやろうかとか思ったんですが、
  微妙にどっかで聞いたような感じだったので辞めときました。(笑)
  他のお話はどうしても時間がかかるのに、
  彼女らのお話はすいすいかけるのが不思議だ。
  書く人の性格とマッチしているということなんでしょうかね。
  そして、またもや勘兵衛様の出番がなかったよぉ。ううう…。

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